理事長挨拶

理事長 荒瀬康司
公益社団法人
日本人間ドック・予防医療学会
理事長 荒瀬 康司
はじめに

この度、公益社団法人 日本人間ドック・予防医療学会の理事長に就任することとなりました。2年前の2022年に新理事長職を拝命しましたので、今回は理事長として2期目となります。気持ちを新たに当学会の発展のため全力で取り組む所存でございますので、何卒宜しくお願い申し上げます。

 

本学会の歴史と名称変更

 

 さて日本人間ドック学会は1959年(昭和34年)に日本病院協会(現 日本病院会)において「短期人間ドック医療担当者講習会」として産声を上げました。今日まで60年余りの長きにわたり、我が国の人間ドックを柱とし予防医療事業を牽引して参りました。
20世紀の日本の高度成長とともに飛躍的な発展を遂げた人間ドック事業ですが、21世紀の少子高齢化による人口減少と高齢化社会の到来、情報システムの著しい発展、人工知能・遺伝子検査の新技術の開発等により、大きな転換期、変革期を迎えるようになりました。加えて2020年より世界的に蔓延・流行している新型コロナウィルスにより、その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観等が革命的、劇的に変化するパラダイムシフトがみられるようになりました。今まで経験したことのない、前例のないことが現れてきています。具体的に例をあげれば学会、各種会議の開催方法などの変化には目を見張るものがあります。このような社会状況の変革に対応するために人間ドック学会では相澤孝夫前理事長のご指導の下2020年夏以降、学会名の変更が検討されるようになりました。
 名称変更が議論されるに至った理由は次のような3つにまとめられます。
第一が健診の多様化と健診における人間ドック占有率の低下です。健診施設では、一次ないし二次予防医療が主体として行われています。一次予防医療は、健診結果をもとにして健康増進の為の生活習慣の改善(適切な食生活、仕事時間、運動の方法、適正飲酒、禁煙、ストレス解消など)を担当医、保健婦等が指導あるいは助言する行為です。二次予防医療は、進展あるいは重症化すると生命に危険が生じ得る疾患を早期に発見し、必要に応じて治療する行為です。人間ドック学会発足後、健診の種類が増え、健診は、人間ドック、法定健診、企業健診、特定健診、がん検診等多様化しています。現在は、人間ドック施設会員においても健診のうち人間ドックの占める割合は約20%を占めているにすぎません。
第二の理由は予防医療の多様化です。予防医療に関しては当学会が発足した時代には、二次予防が主たる目的でしたが、その後一次予防が注目され、特定健診などでは一次予防にも力点がおかれるようになりました。近年では0次予防、そして三次、四次、五次予防と予防医療の関与していく範疇が広範囲になってまいりました。従って本学会としてより0次予防、そして三次、四次、五次予防を含めた広い分野での活動、事業の必要性が増してきました。
第三の理由は国、行政、他学会等との協力事業の多様化です。国は保健事業分野として、特定健診・特定保健指導、ストレスチェック、データへルス計画、健康経営、PHRなど様々な取り組みを積極的に推進しています。また、医療分野においては疾病予防が主要テーマとなり、予防医療は我が国の国民皆保険制度の維持の観点からも重要課題であると認識していると考えられます。さらに各種他学会との共同事業あるいは依頼事項も増加しています。

 このような社会環境の変化を踏まえ、当学会では、人間ドックに限ることなく、広く健診事業さらには 予防医療に関わる事業全般の普及発展と質の向上を目指して、202441日より学会名を「日本人間ドック学会」から「日本人間ドック・予防医療学会」に改称致しました。公益社団法人である本学会の活動目的は「人間ドックに限ることなく、健診事業さらにはそれに伴う予防医療にかかわる事業の普及発展と質の向上に寄与すること」と考えています。過去に人間ドック学会の発展のためにご尽力され構築された組織を理事・社員の先生方、会員の皆様方のご協力をいただいて次世代の方々に人間ドック・健診の有用性を順送りしていきたいと思います。


活動の力点
 

当学会での健診・予防医療の活動においては次の3点を念頭に置きたいと思います。

1)三方よしの活動:健診の遂行に際しては、健診に携わっておられる医療従事者の方々、健診を受けられる受診者の方々、そして社会全体の三方に恩恵が行き届くようにすることが肝要と考えます。

2)健診の有用性の広報:健診を受けることの有用性を文字にして行政、受診者、健診医療従事者などに広報していくことは重要です。特に健診データに基づいた健診の有用性についてのエビデンスを構築し、行政、社会に広げていくことを進めていきます。

3)人材の発掘・育成:健診・予防医療に関しては日進月歩の発展がみられています。時代時代に即した新概念、新技術に対応し変革していくことが求められます。適切・的確な変革ができなければ組織としての継続は難しくなります。不易流行の掛け声の下で必要な事項に関して変革を推し進めていくためにはどうしても新しい人材が必要です。新しい人材が健診・予防医療に関する知識・技術を継承し、時代のニーズにあわせて変革を行っていただけると思います。人材の発掘、育成は極めて重要な事項です。

 以上3方針をバックボーンとして、具体的には次の4点に力点をおいて活動してまいりたいと考えております。

1)健診・予防医療施設の質の向上と発展を支援する活動:受診者の皆様に安心、安全、そして快適な健診を受けていただくためには、各健診・予防医療施設の質が担保されることが欠かせません。各施設の精度管理が適切に行われるような事業を推進・継続していくことが重要です。

2)健診・予防医療事業に携わる医療従事者を育成する活動10年あるいは20年後の健診・予防医療事業を担っていただけるような医師、技師、さらには看護師、事務の方々の育成を支援する方策を実施する予定です。また、新しい人材の発掘方法についていろいろなアプローチを試みようと思います。

3)健診・予防医療のシステムや有用性を研究し発表・広報する活動:健診データをベースに適切な統計学的手法により構築された予防医療の有用性を文字にすることは、喫緊の課題と考えます。

4)健診・予防医療制度に対しての広報活動:政策提言、メディアへの意見広告、他団体との協力などを通して健診の有用性・重要性を多くの国民に知っていただき、ご理解いただくことは健診・予防医療の発展には欠かせません。

 以上4点を中心として、健診・予防医療の分野において自利利他共栄の精神で活動していきたいと思います。

 

 最後に

 

 新学会名のもと、健診・予防医療のより広い分野で、公益性、さらには自利利他共栄の精神で活動して参りたいと思います。
予防医療従事者、受診者ならびに社会との間にWin-Winの良好な関係を築き続けていくことを目指してまいります。

2024年6月20日